夜、男たちが酒を飲むか交わしていました。 太鼓腹を上下に揺らし、たわいもない話を続けながらお酒に酔っています。 みんな楽しそうにしています。辛そうな顔でいつつも。そんな顔を剥ぎ取ろうとみんな明るく笑い、お酒を飲み続けるのです。 そんな騒ぎに参加している、一人の男がふと窓を見た時です。 雪が、音もなくゆっくりと降っていました。 白い、綿の様な雪が、窓の外誰にも邪魔されずに降っていました。 そしてその中で、一人の少女が踊っていました。 はっと目を疑いました。 ここはビルの上。下には多くの人や車が行き交っています。 でも、少女は踊っています。雪の中、宙に浮かび空中を地面にして。男が覗き込んでいる窓の中で。 うれしそうに。 軽やかに踊っています。 もう、あんなには動けないな、と思っている男の前で。 見た事もない踊りでした。形に捕らわれない、体重の軽さを生かした即興の踊りのようでした。 ほの明るい、夜の光に映える金色の長い髪を揺らしながら。 何者かわからない少女は踊っていました。 少女を見ていて気づく事がありました。 実は少年なのではないのかと。 顔つきは少女に思えましたが、その動きは力強く直線的で、何よりそのその白と黒がうまく配色されたその服は男物だったからです。 「君は何者だい」と小声で話し掛けても、窓を叩いても気にも留めず踊り続けていました。 嬉しそうな顔でした。ほのかに微笑んだ、眠っているようにも見える顔でした。 それでいて、その踊りは激しさを増します。 踊り続けるその体には疲れは見えません。その子の目の前にいる男たちとは違って。 どんな踊り子も踊れそうにない動きを、窓にへばりつく男に見せます。 感動した目が、涙を落とさせます。感動させる気はなく、自分が楽しむためだけに踊っているのは明らかだけど。 自分が、自分のためだけに捧げる踊りだろうけども。 踊りは終ります。 あれほど激しかった、夜中の空中での踊りは次第にゆっくり、静かになってゆき、やがて動きは止まりました。 その子は、窓にへばりつく男をまっすぐ見据えます。 水晶の様な透き通る目で。 少女が少年の様に微笑んでいるのか、少年が少女の様な笑顔をしているのかわからない顔と共に。 男は目を閉じました。 そして感じました。 窓の向こう、踊っていたあの子は、自分なんだと。 老化が進み衰え始めた足と、薄くなった髪、醜い太鼓腹の中にいた、自分なんだと。 身体のどこか、心のどこかは、自分の姿をしていた。 老いた身体に、子供がいた。 激しく踊り、喜びに満ちた子供と言う、自分自身がいる。 濁った目の向こうにいる、自分自身が。 男が目に光を再び入れ始めると、その子はもういません。 それに寂しく感じるも、心の奥から何かの喜びを感じ始めていました。 辛そうな顔は持っていません。明るくする必要はありません。 気づきさえすれば、自分の中にこの世のすべてがあるのですから。 それが、少女の様な少年の、少年の様な少女のメッセージだったのです。 男の友人が呼びました。 男のグラスにお酒を注ぎ込みます。 それはもう必要のないものでした。もう、その助けは要らないのですから。 でも、それを手にとりました。 窓を見、軽くグラスを持ち上げました。あの子がいた窓に向かって、乾杯するために。 あの子が映っていた窓に、自分の姿が暗く写っていました。 あんなには踊れないけれど、窓には自分が映っていました。 あの子と同じ場所に、あの子の心を少し持つ自分自身がそこにました。 |